「あれ?サスケくん」

不意に額に添えられた手に、なんだ、とだけ反応する。俺より背の低いサクラが下から覗き込んできている。絶景だとぼんやり考えていると、サクラが呟く。

「熱、あるね」
「…は?」

俺が鈍い反応をしているうちに、額にあった手のひらは首筋へ移動し、扁桃腺が腫れているかを確認し始めた。

「そんなに高いわけじゃないけど、熱だねやっぱり。デートコース変更ー」
「おい、俺は別に…」
「はいはい、お医者さんのいうことは聞きましょうねー」

サクラに手を引かれ大人しくその後を続く。言われてみれば、いつもより体がだるい気がする。一度認識してしまうと余計に体が重たくなった気がした。頭がぼーっとして思考が上手く出来ない。いつも暖かく感じるサクラの手が、俺よりぬるく感じるのは熱のせいだったのか。
気がつくと俺の家に着いていて、サクラが鍵を開けていた。

「サスケくん、とりあえず手洗いとうがいね。で、あったかくして寝ててね」
「ん」

サクラは俺が靴を脱いだのを確認すると、奥に入っていったようだった。俺は言われたとおり大人しく手を洗いうがいをすると、そのまま寝室に向かった。そして倒れ込むようにベッドに体を沈めた。

「あ、サスケくん。あったかくしてって言ったのに」

声がした方を見ると、たらいを手にしたサクラがいた。たらいを机に置くと、俺に駆け寄り。

「ほら、お布団入って」
「ん…」
「さっきより熱上がっちゃったね」

俺を寝かせると、サクラはたらいから氷水に浸していたであろう手ぬぐいを絞り、俺の額に乗せた。

「気持ちよさそう」
「悪いな」
「風邪引いたときくらい甘えてよ」

サクラに頭を撫でられる。その手が心地よくて、次第にまぶたが重くなる。

「サクラ」
「ん?なあに?」
「手…」

俺はそこまで言うと、意識を手放した。



――…


「ん」

目が覚めると、部屋は夕焼け色に包まれていた。長いこと寝てしまったらしい。熱はまだあるようだが大分ましだ。食欲が少し出てきた。
体を起こすと違和感を感じた。違和感の先を辿ると、そこにはサクラがいた。手を繋いでいた。

「なんで手なんか繋いでんだ」
「…あれ、サスケくん起きたの?」

サクラはもぞもぞと動くと起き上がり俺と目線を合わせた。

「気分は?気持ち悪い?」
「熱はまだあるが、さっきよりはいい」
「そっかー、よかった」

サクラがふにゃりと笑ったところで、思い切って疑問をぶつけてみる。

「なあサクラ」
「ん?」
「なんで手なんか繋いでんだ」
「え、サスケくんが繋いでてって言ったんだよ?」

あっけらかんと言い放つサクラに、俺はきっと破顔していただろう。俺が、そんなこと?

「ふふ、あの時のサスケくん可愛かったんだよ」
「ばっ…!俺がそんなこと…!」
「熱出てるときってさ、人恋しくなるもんなんだよ。きっとね」
「っ!…クソッ」

恥ずかしさに耐えきれなくなって布団をかぶる。サクラが楽しそうに笑いながら覆い被さってきた。

「重いぞ…」

照れ隠しにそう呟くのが精一杯で、顔がいのは熱のせいにした。



20121015



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